O・S・A・K・E



 唐突だけど、俺は酒だ。

 名前は――今も無いし、たぶん未来永劫無いだろうな。

 まあ、別にどうでもいいんだけど。





 で、今の俺は、宴会で飲まれている真っ最中、な訳だ。

 どうやら場所は、何処かの神社らしい。

 かなり大勢集まっているらしくて、どんどん酒の量が減っていってるんだよ、これが。

 今回は、でかい瓶が持ち味の俺だったんだが、あっという間に飲まれて、もう残りも少なくてなァ……驚いたぜ。

 まあ、俺らみたいな酒にとっては、飲まれることが生き甲斐であり生き様であり一番の願いだから、普通に嬉しいんだけどな。





 しかし、この宴会は良いなぁ。

 俺も酒として、何回か生まれ変わりながら色々と飲まれてきたんだけど、これだけの宴会は体験した事無かったぜ。

 ……別に規模のでかさなら、これ以上にでかいのにも出された事は、あるんだけどな。一応。

 何て言うか……うん。これだけ気持ちの良い宴会、っていうのに参加したのは、初めてなんだよ。

 これだけ大勢が集まっての宴会となると、下らない見栄張った奴とか、下心ありありの奴とか、どうしても出て来るんだよな。

 実際、ここに集まっている奴らも、それなりにはそういった奴らも居るみたいなんだが……

 巧く言えないんだが……何だか、こう……【ドロドロしてない】んだよな、うん。

 さっき言った、下心やら見栄やらの度合いが、今までと違って、そんなにしつこくないんだよ。

 ……まあ、あくまで俺の勘というか、そう感じただけだから、どうでもいいんだけどな。

 兎に角、この宴会は、今までの中でも最高だな。それは、間違いない。





 ――おうおう、良い飲みっぷりだな、お嬢ちゃん。

 あんたみたいな若い子にしては、珍しいくらいの酒豪っぷりだな、おい。

 まあ、あんまり無理するなよー。アル中とかになられたら、俺の立場が悪くなるんだからな……たぶん。

 しかし、変わった格好しているなぁ……ここが神社から察するに……巫女、って奴かな?

 ……やっぱ、反応は無し、か。

 ま、最初から期待はしてないんだけどなぁ……やっぱり、聞いてもらえないのは少し寂しいな……

 でもまあ、これだけ嬉しそうに飲んでくれているんだ。それだけでも、良しとするかね。





 ……しっかし、これだけ華やかな宴会ってのも、今回が初めてだな。

 ざっと見渡してみたが、どこもかしこも女ばっかだぞ。

 右にも女。

 左にも女。

 おまけに年齢も髪色も瞳色も、十人十色。

 感じや雰囲気も、十人十色。

 ……何というか、楽園だな、こりゃ。

 一応、一人だけ男が居たんだが……なんか、少し離れた場所で落ち着いてるな。

 俺だったらこんなハーレム状態だと、真っ先に浮かれちまうのに……女嫌いか、枯れているか、かな?

 これだけ規模がでかくて、これだけ胡散臭くも男臭くも脂ぎってないのも、珍しいなぁ……

 珍しい事だらけだな、この宴会。





 ……っと、どうやら最後の一杯らしいな。

 最後に飲んでくれるのは……あんたか、お嬢ちゃん。

 ……それだけ嬉しそうに俺を見るなって、照れるじゃねぇかよ。

 あーあ、俺ももう少し、この宴会で飲まれたいんだがなぁ〜……次に生まれ変わる時は、酒樽が良いな。うんっと、でかい奴。

 ――よしよし、相変わらずの、良い飲みっぷりだ。

 それだけ満足そうな顔をしてもらえたなら、俺も満足だよ。





 さて、そろそろお別れかねぇ……周りの風景も、ぼやけて来たか。

 この時の、一旦意識が途切れるのがたまらなく気持ち良いのも、酒に生まれた奴だけの、特権なのかね。





 ……聞こえてないだろうが、礼を言うぜ、お嬢ちゃん。





 ――あれだけ美味そうに飲んでくれて、ありがとうな。





 縁があったら、また会おう!







































 ――っと、いけないいけない。

 居眠りをしていたみたいだね、疲れているのかなぁ……





 しかし、変わった夢だったな。

 自分がお酒になる夢だなんて……私らしいといえば、私らしいかな。

 ……おっと、考え込んでいては駄目だな。私の、良くも悪くもない癖だ。

 早く、この仕事を終わらせよう。





 …………はぁ。





 早く、





 家に帰って、







































 お酒が飲みたいなぁ。





もどる