今日はみんなでシューティングゲームをします。 チルノちゃんは今日も元気です。 「わー」 「きゃー」 姦しいですね。ゲームというのは一人だとすごく静かにプレイするのに、傍に誰かがいるととっても口が動きやすくなります。その誰かが、自分と親しい仲だったなら尚更です。 シューティングは、そこらへんが少し他とは違うゲームだったりもしますが、それでも似通ったところはあるものです。やっぱりゲームですからね。 「ぱるすぃーって変な名前だねー」 「ゆーぎも変な名前だよー」 好き勝手に言ってます、妖精ですからね。妬ましいわ、とでも言ってきそうなくらい和気藹々としてます。 まあ、ここからいきなりドッグファイトやらリアル大乱闘やらに発展しちゃうことも、よくあるんですけどね。妖精ですから。 「らめええええええ四面でおちちゃうのおおおおおおお」 「サニーうるさい」 落ちては代わって、また落ちては代わって。 ゲームをするための機械は一個しかないので、みんな大人しく順番を待っています。 珍しいですよね、妖精が大人しくしているなんて。実は一回、辛抱出来なくなった一人がいきなり弾幕をしちゃって、機械が壊れちゃったことがあったんです。その子は、夏の間にカキ氷屋さんとか魚屋さんとかで氷を売ってお金を貯めて、その機械を山の河童さんに直してもらったんです。 ええ、そのとおり。機械を壊したのは、チルノちゃんでした。 だから今日はみんなしっかりと順番を守っているんです。また壊されたらかなわないですからね。でも当の本人であるチルノちゃんが、今は一番大人しくしていました。どうやら前回の失敗を、チルノちゃんなりに反省しているようです。 ああもう、可愛いなあチルノちゃんは。 待つのに飽きてきた子なんかは、店内でトランプとかして時間を潰しています。そっちもかなり姦しい。 でも、場所を貸してくれた霖之助さんは、意外とまんざらでもない様子。と言うより、妖精たちの様子なんて目に入っていませんでした。みんなが持ち寄った、ガラクタにしか見えないものの数々、それを興味深げに調べていたからです。 そんな訳で、みんなは香霖堂の店内を少しばかり拝借して、ゲームに熱中していました。 「ううー音消したって無理だよー」 「ルナの能力じゃあ無理よねー。まあ任せなさい、ここは動くものの気配が分かる私の能力で」 ぴちゅーん。 ぴちゅーん。 「おりんりんじゃまー」 「にゃーんじゃまー」 金髪ドリルと黒髪リボンがピチュりました。 さっきピチュったミルク金髪は、もう飽きたのか後ろの方で他の妖精たちとトランプをしています。あ、ババが見えた。いやいやここはジョーカーと言った方が適切でしたね、失敬失敬。 今回のシューティングは中々難しそうです。 普段ならみんな、それなりには進めるんですけどね。今回は五面をクリアした子はまだいません。金髪ドリルと黒髪リボンが、機械の前から退きます。 さあ、次にプレイするのは。 「ふんっ」 チルノちゃん、鼻息荒いってああもう可愛いなあチルノちゃんは。 どうやらチルノちゃんの番みたいです。弾幕も出来るチルノちゃんは、果たして弾幕を避けることは出来るのでしょうか。そもそも、プレイすること自体が出来るのかどうか―― 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」 いや五月蝿いってチルノちゃん。 でもうまい! 土スパイダー、妬ましいわ、コ○ット村の一角竜と、次々にクリアしていきます。と同時に、弾幕を避けるのと一緒に、小さなその身体が右に左にと動き回っているのがなんとも微笑ましい。霖之助さん曰く。 「レースゲームでも見ているみたいだね」 だ、そうです。 気付けば四面です、チルノちゃんが使っているのは、恐るべし外道巫女とトランプでいうジョーカーさんのペアです。あ、ババじゃないですよ、確かにババ抜きではジョーカーのことをババと呼びますけど、でもババではないですよたぶん。 「やれやれ、姦しさでは変わらない分、妖精の方がまだマシに思えるよ」 溜め息ひとつ。赤白が鮮やかな外道巫女を見て霖之助さんが呟いている間にも、チルノちゃんはどんどんと進んでいきます。 あ、四面もクリアしました。 いつも思うのですが、この妖怪さんになら妖精でも勝てそうな気がするんですよ。特に、チルノちゃんなんかは。 五面がはじまると、それまでトランプをしていた子たちも徐々に集まってきました。みんな、チルノちゃんの意外なうまさに興味津々なようです。食い入るように、でもチルノちゃんの邪魔だけはなるべくしないよう注意を払いながら、機械を覗き込んでいます。 にゃーん。 あ、また猫です。可哀想だとは思いますが、でもうんざりしちゃいますよね。猫さんもういいよ。 音楽が変わります、さあいよいよです! 「ひゅい」 「うぎぎ」 「あーうー」 なんか色々と別の人たちのが混ざっていますが、全部みんなのささやき声です。妖精ばっかりです。 固唾を呑んで見守る中、どんどんと弾幕が出てきます。ゾンビフェアリー、スプリーンイーター。ところでゾンビって何なんでしょうね、あとで霖之助さんにでも聞いてみることにします。 そんな霖之助さんも興味あり気にチルノちゃんのプレイを見ています――彼は再び顎に手を当てて俯いてしまった。写真で見る芥川龍之介に能く似ている――さっき、そこにあった本に載っていたんです、なんとかの夏と書かれてました。 って、え。 あ。 おお! すごいよチルノちゃん五面クリアしちゃったよ! 一斉に歓声が上がります。 外道巫女と猫さんが何事かを話していますが、みんなそんなことは割りとどうでもいいようです。新たなステージに進めたこと、それを今から見れることを、それぞれ興奮した様子で語り合っていました。むしろ、声高に自分の興奮を吐き出していましたね。 そんな妖精とは離れた位置から、霖之助さんはその様子をぼんやりと眺めています。疲れたような顔でしたが、その目はどこか優しいものが感じられます。 で、当のチルノちゃんはと言うと。 「ふふんっ、やっぱりアタイってば最強ね!」 いつもの台詞で、ビシッと決めていました。 ああもう、可愛いなあチルノちゃんは。 結局、そのあとの六面ではすぐに落ちてしまいました。 「弾幕はやかったねー」 「でもあのボス、なんか妖精に似てなかった?」 「あ、それ言えてるかも」 それでもみんなは、どこか満足した様子で帰っていきました。妖精は、楽しくなかったら嫌だと思うものです。逆に言えば、楽しければなんだって良いものなんです。 チルノ。 そう書かれた記録と、点数として表示された数字が、一番上に載ってあります。 最高得点を取れて、チルノちゃんはとても満足したようです。次は絶対にクリアしてやると機械に向かって宣言したその声も、踊るように弾んでいました。良かったね、と言ったら、歯を見せて本当に嬉しそうに笑ってくれました。 そんな可愛らしいチルノちゃんも今はいません。たぶん湖に帰って、寝てしまっているでしょう。 私は少し、あのシューティングをプレイするための機械を弄くっています。霖之助さんは道具を整理するために、店の奥へと姿を消しています。私の他に、その場には誰もいません。 これで良し。 山の河童さんから聞いた動かし方なら、これで大丈夫なはずです。ちなみに教わったのは、チルノちゃんの最高得点の記録が故障かなにかで消えても、別の場所にそれを取っておくやり方です。 まあ、私がやったのは、違うことなんですけどね。 試しにあのシューティングゲームを、動かしてみます。うん、出来てます、その嬉しさに思わず笑ってしまいました。 チルノちゃんの最高得点は、しっかりと消せていました。 次にこれを見た時、チルノちゃんはどんな反応を見せてくれるのでしょうか。 今日のことなど忘れていて、でもかすかには憶えているので首を傾げて、とっても可愛らしく悩んでくれるのでしょうか。 それとも、折角あそこまでクリア出来ていた記録が消えているショックから、思わず泣きじゃくってくれるのでしょうか。 ああ、堪らない。 悩むチルノちゃんも良いですが、個人的には泣きじゃくるチルノちゃんが見てみたいです。 たぶん豪快に泣いてくれるでしょう、強がりな子ほどその反動は強いですし。周りの視線とかも気にならないまま、ぽろぽろと涙は出てずるずると鼻水まで出て、涎まで垂れてしまいそうなその口からはショックで歪んだ可愛らしい声が漏れ出ている。 ああもう、ああもう! 可愛いなあチルノちゃんは! |
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